アロマで寄り添う看護 ― 終末期の患者さんが望んだ藤の花の香り

ある日、「看護にいかすアロマテラピー講座」を受講してくださった看護師さんから、一本の電話がかかってきました。

「先生、藤の花の精油ってありますか?」

少し驚きながら詳しく伺うと、その方が訪問看護で関わっている末期がんの患者さんから、こんなお話があったそうです。

「藤の花の香りが嗅ぎたい」

その患者さんは、腹水でお腹が張り、息をするのもつらい状態の中、タッチングを受けながらこの言葉を口にされたそうです。

生徒さんは
「もし精油があるなら、次の訪問で持って行ってあげたい」と思って私に相談してくださったのでした。

藤の花といえば、初夏に咲く淡い紫の花。優雅で懐かしさを感じる香りです。
その一言には、人生の記憶や心に深く刻まれた想いが込められていたのかもしれません。

藤の花の精油は存在するのか?

調べてみたところ、残念ながら藤の花の精油は見つかりませんでした。
藤の花の香りは非常に繊細で、蒸留しても香りの成分が残りにくいため、精油として抽出することが難しいのです。


そのため、市場にある“藤の香り”とされるものは、ほとんどが合成香料でつくられています。

ただ、藤の花に似た雰囲気を持つ香りがあります。
それがチューベローズや、ジャスミンの中でも軽やかな香りを持つ「ジャスミン・サンバック」です。

そこで私は、患者さんに強すぎないよう、そっと淡く寄り添うようにジャスミン・サンバックをお部屋に香らせることを、生徒さんにおすすめしました。

でも本当は、生の藤の花があるといいのですが、季節外れなので残念です。

香りもまた、患者さんに寄り添うケア

タッチングのように、香りもまた患者さんに寄り添うケアの一つになり得ます。
人生の最期の時間に「嗅ぎたい」と願う香りがあるということは、それだけ香りが人の記憶や心に深く結びついている証拠です。

人生の最期に「嗅ぎたい」と願う香り。
それは、その人の記憶や心に深く結びついた、大切な想いの一部なのだと思います。

そして、その願いに耳を傾け、香りやタッチを通してそっと寄り添う。
そんな看護師の姿勢こそが、患者さんに安心を届ける力になるのではないでしょうか。

香りも、タッチも、どちらも目には見えないけれど、確かに人に寄り添えるケアです。
看護の中で、言葉では届かない部分に触れられる大切な手段だと、改めて感じさせられるエピソードでした。

香りで患者さんに寄り添うケアが学べる

今回の体験を通して、受講生の看護師さんからこんな感想をいただきました。

「単にケアをする側とされる側という一方向の関係ではなく、香りを通して双方向に心が満たされる関係性を築けたのではないかと深く感じました」

香りを介したケアは、患者さんに寄り添うだけでなく、看護師自身も心が満たされる体験になるのです。

私たちの「看護にいかすアロマテラピー講座」では、精油の薬理作用だけでなく、患者さんに安心や安楽をもたらし、「何もできることがない」と思う場面でも、アロマで患者さんにそっと寄り添い、心を支えるケアが学べます。

香りを通して、看護の現場で新しい寄り添い方を体験してみませんか。

 

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この記事を書いている人

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見谷 貴代

看護師/アイグレー合同会社副代表 アロマセラピストから看護師になり、緩和ケア病棟や高齢者施設で5,000人の患者にタッチングを実践。病院や高齢者施設、製薬会社、企業などで研修や講演を実施。大学でも非常勤講師として活躍している。